お祝いの着物は大人としての立場やマナーを踏まえて選ぶのがポイント
お祝いの着物を大人が着用するのは、主に子どもの行事や結婚式です。
そのため、お祝いの着物は大人としての立場やマナーを踏まえて、色留袖や訪問着、付下げや色無地などの準礼装や略礼装からふさわしいものを選ぶのが一般的。
では、実際には何を基準にしてどう選べばいいのか、大人が着るお祝いの着物の選び方を紹介します。
お祝いの着物は準礼装や略礼装が主流
お祝いの場にふさわしい着物とは、フォーマルな場面で着用できる着物であり、主に準礼装、略礼装という格付けの着物を指します。
具体的には、「色留袖」、「訪問着」「付け下げ」「色無地」「江戸小紋」などが、その着物にあたります。
いずれも紋が入っていれば、ほとんどのお祝いの席に着て行くことが可能です。
もっとも格の高い正礼装である「黒留袖」もお祝いの着物のひとつですが、格が高すぎるため、現代では結婚式以外の子どもの行事で着用することはほとんどなくなりました。
しかし、地域によってはお宮参りや七五三に祖母が「黒留袖」を着ることもあるため、地元や現在お住いの地域の慣わしなども知っておくことが大切です。
お祝いの着物にふさわしい色と柄とは
お祝いの着物には、ふさわしい色や柄があります。
お祝いの場ですから格調高く装うのが基本ですが、結婚式なら華やかな色柄を、式典ならば落ち着いた色に控えめな柄を選ぶことが大切です。
結婚式は明るくてやわらかい色が一般的
結婚式なら着物の種類を問わず、明るくてやわらかくて上品な印象の地色を選びましょう。
華やかで暖かみのある色や、パステル調の淡い色などがオススメです。
例えばパステルカラーの場合、20代なら淡いピンクや薄いオレンジ、30代なら水色やクリーム色、40代以降ならライトグリーンやラベンダーなどが人気。
また、花嫁の色といわれる白や花嫁衣裳と被る色は避けたほうが無難。ゲストの場合は、親族の黒留袖とまぎらわしくならないように、黒地の着物も避けるケースが多いようです。
子どもの行事では控えめな色の着物を
お子さんが主役の行事では、見守る立場の大人の着物は控えめな色味のものを選びます。
お宮参りや七五三、入学式などでは、喜びや希望を表現するような、明るくて上品な色合いのものを。
例えば、淡いピンクやクリーム、若草色や藤色などが人気です。 もう少し控えめに装いたいのなら、ピンクベージュやライトグレーなどもいいでしょう。
卒業式の着物の色の選び方も基本的には入学式と同じ。ですが、別れと門出、学校への感謝の意を表す卒業式の場合、校風や地域の慣わしによっては、明るい装いよりも落ち着いた装いを好まれることがあります。
そんな場合は、濃紺やグレー、ブルーグレーや水色などの落ち着いた色を選択すると周囲から浮くことはありません。柄の数が少なく、柄の色も控えめなものがよいでしょう。
お祝い事にふさわしい縁起の良い柄にも注目を
実は着物の柄にはそれぞれに意味があります。
そのため、お祝いのための着物は色だけでなく、その場にふさわしい柄を選ぶこともポイントです。
よい前兆という意味を持つ吉祥文様や、平安貴族の装飾に用いられていた高貴な柄といわれる有職文様、正倉院にあった宝物や楽器などを文様化した格の高い正倉院文様などを選ぶといいでしょう。
具体的には、次のような縁起の良い意味を持つ柄があります。
松竹梅……長寿、生命力、忍耐強い
牡丹………高貴、富貴、美しさ
菊…………無病息災、延命長寿
橘…………子孫繁栄、長寿
蝶…………立身出世、不死
鶴…………長寿、夫婦円満
鳳凰………平和、高貴、祝福
鴛鴦………夫婦円満
扇面………開運、繁栄
宝尽くし…開運招福、繁栄
上記はあくまで一例で、これ以外にも様々な縁起の良い柄(文様)があります。
例えば、親族の結婚式なら夫婦円満を意味する鴛鴦や鶴の描かれた留袖を着用すれば、花嫁花婿にも喜ばれるはず。
着物をレンタルする前に調べておいて、着て行く場にふさわしい柄を選びましょう。
お宮参り
お宮参りで大人が着物を着られるのは、主役である赤ちゃんが祝い着を着る場合だけとなります。
赤ちゃんが洋装の場合は、大人も洋装がマナーです。
母親の着物は「訪問着」「付け下げ」「色無地」
お宮参りのときに母親が着る着物には、「訪問着」「付け下げ」「色無地」などがあります。
主役の赤ちゃんよりも目立たないように、明るい色味で上品な柄付けの着物を選びましょう。
父方の祖母が「色留袖」なら母方の祖母は「訪問着」を
祖母の場合、父方と母方でお宮参りに着用する着物の選び方が異なります。
昔は神社への参拝時に赤ちゃんを抱っこする父方の祖母は、黒留袖を着用するという慣わしがありました。しかし、黒留袖では格が高くなり過ぎることもあり、いまでは赤ちゃんを抱っこする場合には色留袖を着る方が多いようです。
また、昔は母方の祖母の着物は父方の祖母より少し格下のほうが良いという慣わしもありました。現在はこだわる方も少なくなりましたが、赤ちゃんを抱っこする父方の祖母が「色留袖」なら、母方の祖母は「訪問着」や「色無地」などを選ぶといいでしょう。
事前にどんなお宮参りを行うのか、参加者はどんな服装で来るのかなど、しっかりと打ち合わせしておくことが大切です。
七五三の着物
七五三もお宮参りと同じで、主役の子どもが晴れ着を着るのであれば、母親もお祝いの場にふさわしい着物を着てもいいでしょう。
では、どんな着物が七五三の母親にふさわしいのでしょうか。
七五三の着物は「訪問着」「付け下げ」「色無地」「江戸小紋」
「訪問着」や「付け下げ」、「色無地」や「江戸小紋」なら問題ありません。
ただし、江戸小紋は粋な装いになるため、着物上級者や30代以降の方におオススメの着物です。
どの着物の場合も、主役である子どもが引き立つように、落ち着いた色味と控えめな柄付けの着物を選ぶことが大切です。
入学式
子どもの入学式などの式典に参列する際の母親の着物は、地域の慣習や校風に沿っていること、主役である子どもより目立つ装いではないことが大切です。
入学を祝う着物は「訪問着」「付け下げ」「色無地」
入学を祝う着物として人気なのは「訪問着」「付け下げ」「色無地」です。
「色留袖」は一つ紋であれば準礼装となり、着ていくことができます。
入学式は子どもの新しいスタートですから、喜びや希望を表現する淡いピンクやクリーム、ベージュ、若草色や藤色などの明るい地色の着物がオススメです。
ただし、大胆なデザインや豪華な柄付けだと目立ってしまうので、気をつけましょう。
訪問着| 薄緑に流水と扇面 | H0066 / レンタル価格18,800円(税込/往復送料込)
卒業式
子どもの卒業式にふさわしい着物を選ぶ場合にも、入学式と同じで地域の慣習や校風を意識することが大切です。
学校行事は校風や地域の慣習に沿うことも大切
例えば、卒業式は子どものハレの日ですが、先生方への感謝の気持ちを表す日でもあるため、華やかな装いよりも落ち着いた装いが望ましいという考え方があります。
反対に、卒業式こそここまで頑張って来た子どもたちを盛大にお祝いしてあげようという考え方の学校もあるようです。
必ずしもそれに合わせなければいけないわけではありませんが、その場の雰囲気を壊さない装いをすることもマナーではないでしょうか。
卒業式の着物は「色無地」「付け下げ」「江戸小紋」「訪問着」
一般的には、準礼装や略礼装の「色無地」「付け下げ」「江戸小紋」「訪問着」などを着用する方が多いようです。
着物の色は派手過ぎるものはNGですが、落ち着いた色をと思って暗い色を選ぶのもNGです。お祝いの着物ですから、品の良さ、優美さを感じさせるやわらかい色味を選んで。
また、豪華すぎる柄の着物を選ぶと、制服姿の子どもと並んだ時に母親のほうが目立ってしまいますから、柄数の少ない控えめなものを選びましょう。
訪問着| 和田光正 水色に菊と松 H0089 / レンタル価格29,800円(税込/往復送料込)
結婚式
結婚式というお祝いの席にふさわしい着物は、立場によって異なります。
自分がどの立場に当てはまるのかをしっかり把握して、着物を選びましょう。
結婚式の着物は立場に合わせて選ぶことが大切
・新郎新婦の母親や既婚の親族なら、正礼装である黒留袖。
・未婚の親族であれば、五つ紋で黒留袖と同等の正礼装になり、三つ紋や一つ紋で準礼装となる色留袖。
・未婚の親族で10代~20代なら、正礼装の振袖。
・ゲストの場合は略礼装や準礼装にもなる訪問着
上記の考え方が一般的ですが、両家のバランスや、格式の高い結婚式なのか、アットホームな結婚式や披露宴なのかによっても、着物選びは変わってきます。
花嫁がどんな花嫁衣裳を着るのかもわかるようなら確認して、振袖を着用する場合には、花嫁と色や柄が被らない振袖を選ぶこともマナーといえるでしょう。
まずは、事前にどんな結婚式で、誰がどんな着物を着用するのか、わかる範囲でかまわないので情報収集しておくことをオススメします。
免許授与式
お祝いの着物は子どもの行事や結婚式だけではありません。
習い事やお稽古ごとを長く続けている方なら、ご自分の免許や許状の授与式などに出席することもあるのではないでしょうか。
免許授与式の着物は「訪問着」「付け下げ」「色無地」
免許授与式に着物で出席する場合には、「訪問着」や「付け下げ」「色無地」などがふさわしいと考えられます。
また、着物の格に合った礼装用の袋帯を締めること、帯締めや帯揚げ、足袋などもフォーマル用のものを選ぶことが大切です。
迷った時には紋入りの「色無地」がオススメ
茶道や華道、着付けなど日本の伝統文化の免許状をいただく場合は、流派や先生によってもどんな着物を着るかのマナーは異なります。
できれば、先生や先輩方にどんな着物を着用すればよいのか、聞いてみることをオススメします。
もしも、確認するのが難しい場合には、「三つ紋や一つ紋の色無地」に袋帯が無難です。
ようやく免許をいただける自分が輝く場ではありますが、指導いただいた先生方への敬意と感謝を表す服装を心がけるとよいでしょう。
叙勲・褒章の受章式
滅多にないことですが、叙勲や褒章の受章式で皇居へ参内する際には、どんな着物を着るべきなのでしょうか。
叙勲・褒章は宮中のしきたりに従った装いを
叙勲、褒章を受ける方と同伴者(配偶者)は、皇居への参内や天皇陛下への拝謁があるため、どちらも服装は宮中のしきたりに沿った装いになります。
また、受ける勲章によって服装の着用規程が異なるため、注意が必要です。
大勲位菊花章頸飾・大勲位菊花大綬章・桐花大綬章・旭日大綬章・瑞宝大綬章という天皇陛下から直接親受される勲章の場合、女性の服装はローブデコルテ(イブニングドレス)またはローブモンタント(ロングアフタヌーンドレス)で、着物の着用は認められていません。
文化勲章・旭日重光章・瑞宝重光章・旭日中綬章・瑞宝中綬章、小綬章・双光章・単光章の場合は、女性は色留袖または色留袖と同格のローブモンタントを着用します。
着物の中でもっとも格が高い黒留袖を着ないことを疑問に思うかもしれませんが、皇室では黒色は「喪」に使用する色であり、昔から黒は避ける習わしがあります。
そうなると、参内にふさわしい正礼装の着物は、最も格式の高い五つ紋の色留袖となります。
紫色は皇室の色だから避けるべきという話もありますが、紫色が禁じられているわけではありません。ただ、実際に紫の色留袖で参内した場合、目立つことは否めないようです。
自分が主役であっても派手な装いは控え、上品な薄い色合いで、裾柄は吉祥文様などの格調高い色留袖を選ぶことが大切です。
まとめ
大人が着るお祝いの着物は、ほとんどが子どもに関する行事や結婚式です。
そのため、着用する着物は「色留袖」「訪問着」「色無地」「付け下げ」が主流となります。
まずは、自分が出席するお祝いの席にはどの着物がふさわしいのかを知り、次にどう着こなせばいいのかを考えて、お祝いの場での着物を楽しみましょう。